「社長、あと10%引けば契約できます! 今回だけお願いします!」 営業担当者からこう頼まれて、つい「まあ、売上がゼロになるよりはマシか」と承認印を押してしまった経験はありませんか?
「値上げ」には慎重な経営者も、「値下げ」には寛容になりがちです。しかし、数字の構造を知れば、「安易な値下げこそが、会社の利益を最も確実に減らす要因」であることがわかります。
本記事では、たった10%の値引きが利益に与えるインパクトと、それを防ぐための判断基準について解説します。
「10%引き」は、実は利益の「30%減」
経営者が直感的に陥りやすい罠、それは「売上の減少率(10%)」と「利益の減少率」を混同してしまうことです。 ここでは、実際の数字(限界利益※)を使って計算してみましょう。
※限界利益を求めるには、売上原価や販管費を変動費と固定費に分解する必要があります。変動費と固定費の分け方については次の記事を参考にしてください。

【利益への影響シミュレーション】
<前提条件>
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商品価格:1,000円
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変動費:700円
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限界利益:300円
この商品を、営業担当者の要望通り「10%値引き(100円引き)」で販売したとします。
<値引き後の数字>
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販売価格:900円
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変動費:700円(※販売個数に比例する費用は、販売価格が値下がりしても変化しません。)
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値引き後の限界利益:200円
お気づきでしょうか? 売上は10%(100円)しか減っていませんが、手元に残る利益は300円から200円へ、「約33%」も減少しているのです。
「10%くらいなら…」という軽い気持ちでの値引きは、実は「利益の3分の1を失う」のと同じことなのです。
(注)変動費の割合によって、利益の減り具合は異なります。自社の場合10%の値下げで利益が何%変わるか計算してみてください。
値引き分を取り戻すには、どれだけ売ればいい?
さらに重要なのはここからです。 減ってしまった利益を取り戻すためには、販売数量を増やさなければなりません。では、どれくらい増やせば元の利益額(トントン)になるのでしょうか?
計算式は以下の通りです。
必要販売数量 = 元の利益総額 ÷ 値引き後の単価利益
仮に、もともと100個売っていたとします。
価格1,000円の100個販売するので売上は10万円、
1個当たりの変動費は700円、100個売った時の変動費は7万円です。
利益は、10万円-7万円=3万円となります。
この3万円を値引き後の利益(200円)で割ると、3万円の利益を出すために値引き後の商品を何個売らなければならないのかがわかります。
30,000円 ÷ 200円(値引き後の利益) = 150個
なんと、「1.5倍(+50%)」の数量を売らなければ、元の利益額には届かないのです。
「お客さんの数を1.5倍に増やす」ということを想像してみてください。よほど価格に敏感な商品でない限り、中々困難な仕事になるのではないでしょうか。つまり、根拠のない値引きは、「忙しさは増えるのに、利益は増えない」という状況を自ら招いてしまうのです。
それでも値引きしますか? プロフェッショナルの視点
数字の構造を理解した上で、現場の「値引き圧力」にどう対抗すべきか。3つの視点で値引きの是非を考えてみます。
① 営業のプロの視点 「値引きに頼ることは、営業力の放棄につながりかねません」 一度「お願いすれば安くなる」と認識した顧客は、次回も厳しい要求をする傾向があります。また、営業担当者も「価格を下げれば売れる」という方法に慣れてしまうと、本来の商品価値を提案するスキルが育ちにくくなります。
② 経営コンサルタントの視点 「値引きをしていいのは、『戦略』がある時だけです」 推奨される値引きは主に2パターンです。
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在庫処分: 商品の入れ替え時など、現金化を急ぐ場合。
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フロントエンド: 初回限定で集客し、リピート商品で利益回収するモデルが確立している場合。 それ以外の、単に「契約が欲しいから」という理由での値引きは、経営上のリスクとなります。
③ 税理士・金融マンの視点 「『貧乏暇なし』の正体は、利益率の低下と業務量の増加です」 先ほどの計算通り、値引きをして利益総額を維持するには1.5倍の販売数が必要です。 ということは、発送作業、請求書発行、クレーム対応などの「手間」も1.5倍に増えるということです。現場は疲弊し、残業代などの固定費は増え、でも手元に残る利益は増えていない。これが、多くの企業で起きている現象です。
まとめ:値引きを要求された時の「条件交渉」
これからは、現場から「値引きしていいですか?」と聞かれたら、ただ承認するのではなく、以下のように答えてみてください。
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【交換条件をつける】 「いいよ。その代わり、『数量をまとめてもらう』か『納期をこちらに合わせてもらう』か『前入金にしてもらう』か、条件をもらってきて」 (※一方的な値下げではなく、相手にもリスクやデメリットがある対等な交渉にする)
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【別の選択肢(松竹梅)を出す】 「値引きはできない。その代わり、機能を絞った『エコノミープラン(梅)』を提案して」 (※利益率は下げず、商品ランクを変えて単価を下げる)
値引きは、利益(会社の体力)を直接削る行為です。「10%の値下げは、30%の利益ダウン」。この公式を常に頭に置き、安易な値引き判断を回避しましょう。



