「この設備を導入すれば、生産効率が劇的に上がります!」
「今、改装しないと他社に負けてしまいます!」
現場の担当者や業者からこうした提案を受けた際、あなたの心の中は「期待」と「恐怖」、どちらが大きいでしょうか? おそらく、「確かに必要だ」と思う反面、「数千万円もの大金を使って、本当に元が取れるのか? 資金繰りは大丈夫か?」という重い不安がよぎっているはずです。
設備投資は会社の成長に不可欠ですが、判断を誤れば、借金の返済だけが残り、資金繰りを圧迫する原因にもなります。
投資が成功するかどうかは、運や度胸ではありません。「将来のお金の動き」を正しく見積もれているかどうかにかかっています。
今回は、財務の専門家が用いる判断手法(正味現在価値法)を、誰でも使えるように「表計算ソフト(エクセル等)」で算出する手順として解説します。 難しい計算は道具に任せて、社長は「未来の予測」に集中してください。
手順1:まずは「5年間の収支予想」を書き出す
判断の第一歩は、「その投資をしたら、会社の数字がどう変わるか?」を具体的に書き出すことです。
頭の中にある計画を、まずは紙やメモに書き出してみましょう。
ここで見るべきは、投資をしなかった場合との「差額(変化した部分)」だけです。
【確認項目:何が増えて、何が減るか】
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売上は増えるか?(生産量が増える、新規客が取れるなど)
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経費は減るか?(古い機械の修理費が減る、残業代が減るなど)
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逆に経費が増える部分は?(新機械の電気代、減価償却費、保守費用など)
これらを足し引きして、「この投資のおかげで、本業の儲け(営業利益)が毎年いくら増えそうか?」を5年分、ざっくりと予想してください。
例:1,000万円の機械への投資計画
1年目:立ち上げ期間のため、利益増は +100万円
2年目:軌道に乗って、利益増は +200万円
3年目以降:安定して、利益増は +300万円 …
まずは、この「利益の予想」を作るところからスタートです。
手順2:「利益」を「現金(手残り)」に置き換える
手順1で「利益」を予想しましたが、実はこれをそのまま判断に使うことはできません。 投資の採算性を正しく評価するには、「利益」ではなく「現金(キャッシュフロー)」を見る必要があります。
キャッシュは「実際に手元で動いたお金」です。 決算書上の利益(損失)には、減価償却費のように「帳簿上はマイナスだけど、実際にその期間には現金が動いていない費用」が含まれています。
投資に見合うだけのお金を生み出すか(リターン)を正確に評価するには、損益ではなく「実際に手元でどうお金が動くか」を見ます。言い換えると、設備投資に使ったお金を一定期間内にお金で回収できるのかどうかです。
また、会計上の「利益」と手元の「現金」の動きにはズレが生じます。例えば、機械を購入すると、お金は「最初」にまとめて出ていきます。会計上、この機械は一旦資産に計上され、その後数年間に分けて「後から」少しずつ経費(減価償却費)として計上されていきます。2年目以降は、この経費だけが発生しますが、お金の支出はありません。このズレを修正する必要があるのですが、ズレを修正し「実際に手元に残るお金」を算出するために次の2点を調整します。
- 増えた利益にかかる税金(現金は減る):利益が出れば、当然税金を払わなければなりません。手元に残るのは税金を引いた後のお金です。利益が減った場合は逆に浮いた税金分を足すことになります。
- 減価償却費などを足し戻す(現金が出ていかない):減価償却費は決算書上の「費用」ですが、実際にお金が出ていくわけではありません(お金は取得した時にすでに出ていっている)。手元の現金を計算する際は、利益に減価償却費を足し戻します。減価償却以外にも○○評価損、××売却益のように現金の出入りがない損益があった場合、損なら足し戻し、益なら差し引きます。
例:1,000円の利益増で、内訳は、売上:5,000円、売上原価:3,000円、減価償却費:1,000円だとすると、まず、税金は300円となり、税引後の利益は700円。ここから現金の計算、700円+1,000円=1,700円。+1,700円となり、利益は1,000円増だが、現金は1,700円増えたとなる。
【置き換えの計算式】
実際に使えるお金 = 営業利益 × (1−税率) + 減価償却費など
少しややこしいですが、手順3で使う表計算ソフトが自動で計算してくれますので、今の段階では「税金を引いて、償却費を足すんだな」と理解しておいてください。
この記事では、営業利益や減価償却費は前期との差額を使った計算方法を紹介しています。
手順3:表計算ソフトで「判定」を出す
材料が揃ったら、エクセル(またはグーグルスプレッドシート)に入力して判定します。 使うのは関数の「NPV」という、投資判断のための専用機能です。(NPV:Net Present Value=正味現在価値)
この計算では、ただの足し算ではなく「現在価値(割引計算)」という考え方を使います。 少し難しく感じるかもしれませんが、要点は以下の2つです。
1. 「現在価値」とは?
「お金の時間的価値」を考慮することです。 今の100万円と、1年後の100万円では価値が違います(今すぐ使える現在の方が価値が高い)。金利2%だとすると、100万円は1年後に102万円です。1年後102万円の現在価値が100万円となります。1年後の100万円の現在は価値は、2%で割り引くと980,392円です。
2%の金利下だと1年後の100万円と現在の98万392円が同じ価値ということになります。
将来入ってくるお金を、今の価値に換算することで、「最初に出ていく投資額(今の1,000万円)」と「将来戻ってくるお金(リターン)」を対等に比較できるようになります。
2. 「目標利回り(割引率)」の設定
現在価値を求める際、「目標利回り」という数字を決める必要があります。 これは、「最低でも年率これくらいは儲けないと、投資する意味がない」、「この投資をせずに他のことにお金を回せばこれくらいは稼げる」という合格ラインのことです。
よくわからないという場合は、以下を目安に設定してください。
推奨設定:5% 〜 7%
【根拠:銀行金利 + リスクへの備え】 「銀行への金利(約1.5〜2%)」を払うだけでは、会社に利益が残りませんし、何かトラブルがあればすぐに赤字になります。 そのため、金利に「不測の事態への備え(リスク対策)」を3〜5%ほど上乗せし、合計5%程度を最低ライン(目標)として設定します。
ここまで理解出来たら、計算をしてみましょう。以下の表のようにセルに入力してみてください。
期間は、目標や計画の年数、あるいは設備の耐用年数を使います。ここでは5年としています。
▼ エクセルへの入力例
| 行 | A列(項目) | B列(数字を入力) | 解説 |
| 1 | 目標利回り | 5% | 銀行金利+不測の事態への備え |
| 2 | 投資額 | -10,000,000 | 初期投資(必ずマイナスをつける) |
| 3 | 1年目の手残り | 2,700,000 | 手順2で計算した「現金」の額 |
| 4 | 2年目の手残り | 2,700,000 | 〃 |
| 5 | 3年目の手残り | 2,700,000 | 〃 |
| 6 | 4年目の手残り | 2,700,000 | 〃 |
| 7 | 5年目の手残り | 2,700,000 | 〃 |
| 8 | 判定(NPV) | =NPV(B1, B3:B7) + B2 | ←ここに数式を入れる! |
【ここがポイント】
B8セル(列Bの8行目)の数式 =NPV(B1, B3:B7) + B2 は、B3~B7の金額をB1の割引率で現在価値にした金額で、そこにB2の投資額(現金が出ていっているのでマイナス)との差額を出すという意味の計算式にはなています。
これが「将来の現金を割り引いて合計し、そこから投資額を引く」という複雑な計算を一瞬でやってくれます。
手順4:結果の読み解き方
B8セルに表示された数字を見てください。 上記の例(1,000万円投資、毎年270万円回収、目標利回り5%)で入力した場合、以下のような結果が出るはずです。
計算結果: +1,689,587 円
この数字が「プラス」か「マイナス」かで、判断が分かれます。
ケースA:判定が「プラス」の場合
判定:投資価値あり
この「約169万円」という数字は、「1,000万円の元を取り、銀行への金利やリスク(目標利回り5%分)もすべてクリアした上で、さらに今の価値で169万円の余剰が出る」ことを意味します。 「出ていくお金」よりも「入ってくるお金(の価値)」の方が大きい状態です。自信を持って進めてください。
【さらに盤石にするために】 念のため、より慎重な検証も行いましょう。 入力した売上予測を、「目標の8割」に下げて書き換えてみてください。 それでも結果がプラス(あるいは軽微なマイナス)で踏みとどまるなら、不況などの外部環境変化にも耐えうる「盤石な投資」と言えます。
ケースB:判定が「マイナス」の場合
判定:要検討(投資価値なし)
もし結果が「▲50,000円」などのマイナスになった場合。 これは、「帳簿上は黒字に見えるかもしれないが、金利負担や将来のリスクを考慮すると、実は入ってくるお金の方が少ない(元が取れていない)」という状態です。
【プラスにするための検討事項】 マイナスが出たからといって、即座に中止する必要はありません。「どうすればプラスにできるか」を試算してください。
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投資額(出ていくお金)を下げる: 「業者と交渉して値切れないか」「中古で代用できないか」
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回収額(入ってくるお金)を増やす: 「稼働率をもっと上げられないか」「関連商品もセットで売れないか」
これらを調整し、再度エクセルに入力し直します。 計画を見直して「プラス」に転換できた時こそ、その投資を実行に移すタイミングです。
まとめ:道具を使って「賢い決断」を
投資はギャンブルではありません。根拠のある数字に基づいた試算をすることができます。
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5年分の収支を予想する
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「現金」の動きに置き換える
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エクセルに入れて「プラス/マイナス」を判定する
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条件を厳しくしてもプラスになるか確認する
この手順を踏めば、損失を未然に防ぐことができます。 「勘」ではなく、「根拠ある数字」を持って、会社を次のステージへ進めてください。
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【シートで出来ること】
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売上・原価・経費を入れるだけ: 「売上がいくら増えて、経費がいくら減るか」を入力すれば、面倒な「税金」や「減価償却費の足し戻し」を全自動で計算し、キャッシュフローを算出します。
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記事の例題を搭載: 本記事で解説した「1,000万円投資の例」があらかじめ入力されているので、数字を書き換えるだけですぐに使えます。
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グラフで見える化: 投資回収の推移がひと目でわかるグラフ付きです。
「自分の投資計画が安全かどうか、今すぐ確かめたい」 という経営者様は、このシートを使って、自社の計画をシミュレーションしてみてください。
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