「赤字事業、いつ撤退すべきか?」 経営者が知っておくべき3つの判断基準と計算式

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赤字事業や不採算店舗の撤退判断は、経営において最も難しい意思決定のひとつです。 「もう少し続ければ黒字になるかもしれない」「これまでの投資が無駄になる」という迷いが生じ、決断が遅れるケースが後を絶ちません。

しかし、判断基準を曖昧にしたまま事業を継続することは、会社の資金繰りを悪化させるリスクがあります。

今回は、撤退ラインを明確にするために必要な2つの「利益のモノサシ」と、ただ辞めるだけでなく「事業を他社に譲って(売って)撤退する」という選択肢について解説します。

準備:判断に必要な「2つの利益」を知る

判断に入る前に、会計上の「営業利益(最終的な儲け)」とは別に、撤退判断専用の2つのモノサシを知っておく必要があります。 初めて聞く言葉かもしれませんが、計算は単純です。

① 限界利益(げんかいりえき)

意味: 「商品そのもの」が稼ぐお金。

」計算式: 売上 - 変動費(材料費・仕入原価・外注費など)

家賃や人件費などの固定費を引く前の、「商品を売った瞬間に手元に残るお金(粗利)」のことです。 これがプラスでないと、商売のスタートラインに立てていません。

② 貢献利益(こうけんりえき)

意味: 「その店舗(または事業部)」が稼ぐお金。 計算式: 限界利益 - 個別固定費(その店の家賃・スタッフ給与)

本社経費(社長の給与や本部の家賃)を割り振る前の、「その店単体の儲け」のことです。 これがプラスなら、その店は会社全体の運営費を負担(貢献)していることになります。

2. 原則:「買った値段」は忘れ、「売れる可能性」を探る

用語の準備ができたところで、判断の原則をお伝えします。 多くの社長が陥る罠が、「過去の投資額(サンクコスト)」への執着です。

① 「買った時の値段」は無視する

例えば、店舗の内装工事に1,000万円かけたとします。 「1,000万円もしたからもったいない」と思いがちですが、撤退・継続どちらを選んでも、過去に払った1,000万円は戻ってきません。 「過去にいくら使ったか」は、今の判断には一切関係ありません。

② 「今、売れる値段(清算価値)」は判断に入れる

一方で、その店舗や設備が「今いくらで売れるか」は、判断の決定打になります。

通常、店舗を閉める際は「原状回復(スケルトン戻し)」が必要で、数百万円の解体費がかかります。 しかし、内装や設備をそのまま次の入居者に売る(造作譲渡)ことができれば、「解体費が0円」になるだけでなく、「現金」が入ってくる可能性があります。

「赤字を止める」だけでなく、「最後に現金を回収する」。 この「売れるタイミング」を逃さないことも、早期撤退を決断すべき大きな理由になります。

3. 基準①:即時撤退すべきライン(限界利益がマイナス)

まず、明日すぐに撤退すべき危険な状態です。 ここで使うのは「限界利益(商品そのものの稼ぎ)」です。

具体例:ラーメン店の場合

ラーメン1杯の売価:800円

変動費(材料費・光熱費):900円

限界利益: ▲100円(マイナス)

【判断】即時撤退(ただし例外あり) この状態は、「商品そのもの」が赤字です。 ラーメンを1杯売るたびに、財布から現金が100円消えています。家賃や給料を払う以前の問題です。 営業すればするほど傷口が広がるため、基本的には即時の撤退または値上げが必要です。

⚠ 例外:「戦略的赤字(フロントエンド商品)」ではないか?

ただし、数字だけ見て撤退すると大怪我をする場合があります。 その赤字商品が、「集客のための撒き餌(フロントエンド)」になっているケースです。

例: 赤字覚悟の「100円ランチ」でお客を集め、利益率の高い「ディナー」や「ドリンク」で回収している。

例: 採算度外視の「格安プリンター」を売り、消耗品の「インク」で儲けている。

このように「肉を切らせて骨を断つ(他商品への波及効果がある)」場合は、その商品の限界利益がマイナスでも必要なコストと言えます。 撤退を判断する際は、単体の赤字だけでなく、「その商品をやめたら、他の商品の売上も落ちないか?」を必ずセットで確認してください。

4. 基準②:期限付きで継続するライン(貢献利益はプラス)

次に、判断が難しい「最終赤字だが、粗利は出ている」ケースです。 ここで使うのは「貢献利益(お店単体の稼ぎ)」です。

具体例:他店舗展開している時の閉店判断

複数店舗を運営している場合、売上の大きさや帳簿上の最終損益だけで判断すると、間違いを犯すことがあります。

ここで使うのが「貢献利益」です。 以下の表は、ある会社(3店舗運営)の成績表です。 会社全体では「140の赤字」が出ています。あなたがこの会社の社長なら、どの店をテコ入れ、あるいは撤退させますか?

A B C 全社合計
売上 800 500 300 1600
変動費 700 420 200 1320
限界利益 100 80 100 280
個別固定費 200 80 40 320
貢献利益 -100 0 60 -40
共通固定費 100
営業利益 -140

一見すると、A店が売上No.1(800)で主力に見えますが、「貢献利益」で判断すると、A店が会社のお金を100食いつぶしている(▲100)ことが分かります。

 

「じゃあ、A店を即閉鎖すれば、会社の赤字は100減るんだな?」 ……と思うかもしれませんが、ここに落とし穴がありますので注意が必要です。

 

注意:「撤退でその固定費は本当に消えるのか?」

A店を閉める前に、A店の個別固定費(200)の「内訳」を確認します。 撤退によって「消える経費」と「消えない経費」とを見極めます。

 

ケース①:「家賃」など店舗があるから発生する固定費の場合(撤退で消える経費)

撤退すれば家賃は0になります。この店舗の広告費もかからなくなります。A店の赤字要因がごっそりなくなるため、撤退することで会社全体の利益は改善します。 ⇒ 判断:撤退すべき

 

ケース②:固定費が「正社員の人件費」の場合(消えない経費)

ここが悩みどころです。 店舗を閉鎖するから即解雇というわけにはいきません。他の店舗や本社に異動させて雇用は続くことになります。 すると、「A店が稼いでいた限界利益(+100)」だけが消滅し、「人件費(200)」は会社に残ります。 結果、撤退した方がかえって赤字が拡大してしまいます。

 

では、どうすればいいのか?(テコ入れの判断)

雇用を守るためにA店を閉められないとしても、会社全体が赤字(▲140)である以上、「現状維持」という選択肢はありません。 以下のどちらかの手を打つ必要があります。

A店を再生する: 材料費の見直しや値上げを行い、今の売上のままでも「限界利益」をもっと残せる体質に変えること、固定費を見直すこと、また配置転換や自動化などにより人件費相当額を他部門へ付け替えてみることも検討してみるのも良いでしょう。

配置転換で稼ぐ(機会損失の解消): A店を閉めて、その人員を「C店」や「新規事業」に投入する。 そこで、A店時代(100)以上の限界利益を生み出せるなら、A店を閉める価値があります。

 

「撤退できないから仕方ない」ではなく、「人件費という固定費に見合うだけの稼ぎ(限界利益)を、どこで作るか?」を考えることが、本当の経営判断です。

5. もう1つの選択肢:「捨てる」のではなく「譲る」

撤退を決めた時、ただ店を畳んで(廃業して)終わりにするのはもったいない場合があります。 最後に、「事業譲渡(M&A)」や「居抜き売却」という出口戦略について、具体的な進め方を解説します。

ステップ①:いくらで売れるか?(値付けの目安)

赤字事業の場合、「何年分もの営業利益」を上乗せして売るのは困難です。 欲張らず、以下の基準で見積もってみましょう。

店舗ビジネスの場合: 「中古の設備代 + 内装の価値(造作代)」

※「300万円で売れればラッキー、0円(無償譲渡)でも解体や原状回復費などの200万円が浮くなら大成功」と考えましょう。

店舗がなくても、例えば、ネット通販やサービス業の場合、「在庫の実勢価格」や「顧客リストの価値」で買い手がつくこともありますし、鼻からあきらめないようにしましょう。

ステップ②:誰に相談すればいい?

まずは身近な専門家に相談し、相場感を確認します。

事業引継ぎ支援センター(公的機関):各都道府県に設置されている国の相談窓口です。無料で公平なアドバイスがもらえます。

店舗専門の不動産会社: 「居抜き」に強い不動産会社なら、次の入居者候補(買い手)を抱えていることが多いです。

M&Aアドバイザー・税理士: 顧問税理士に相談するのも良いですが、M&Aは専門外だからやらないという方もいます。

ステップ③:どこで売りに出す?(マッチング)

今は、インターネットを使って自分で買い手を探せる時代です。

店舗を売りたい場合: 「居抜き市場」「店舗そのままオークション」などの店舗売買サイト。

事業そのものを売りたい場合: 「TRANBI(トランビ)」「BATONZ(バトンズ)」などのスモールM&Aサイト。

これらに登録することで、「赤字のラーメン屋だけど、立地が良いから欲しい」「赤字の学習塾だけど、生徒リストが欲しい」という買い手が見つかる可能性があります。

M&Aの専門家や金融機関もこれらのサイトを活用してマッチングを行なっています。

まとめ:3つの撤退ルール

感情論を排除し、以下の数値基準で判断を行ってください。

  • 商品そのものが赤字(限界利益マイナス)なら、即時撤退する。
  • 店舗単体では稼げている(貢献利益プラス)なら、本社経費を含めた赤字でも継続を検討する。
  • 撤退時にコスト(解体費や人件費)が残る場合は、それを上回る「売却益」や「配置転換の利益」が出せるかを計算する。

経営者の役割は、事業を続けることだけではありません。 「引くべき時」を見極め、場合によっては事業を他社に託し(売却し)、会社全体として現金を最大化することも、立派な経営判断です。