サービス業の「儲け」の正体:メニュー別コスト計算で見る、本当の利益

1-1. 小規模企業経営1. 企業経営・財務

あなたのビジネスは本当に儲かっていますか?

サービス業を営む皆さん、こんにちは。お店で一番人気のメニュー、あるいは一番高価なメニューは、もちろん一番「儲かる」メニューだと思っていませんか?実は、その考えは危険かもしれません。お客様にたくさん選ばれるメニューが、必ずしもお店の利益に貢献しているとは限らないのです。

この記事では、具体的な数字を使いながら、一見複雑に見えるコスト計算をステップ・バイ・ステップで解き明かしていきます。この記事を読み終える頃には、あなたはメニューごとの「本当のコスト」と「本当の利益」を見抜く力を手に入れているはずです。

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それでは、具体的なメニューの計算に入る前に、まずはお店の「全体」の運営コストから見ていきましょう。

1. ビジネスの全体像を把握する:総コストと稼働時間

どんなビジネスでも、まずは全体像を数字で捉えることが基本です。ここでは、あるサービス店の例を見てみましょう。美容室やネイルやマッサージ等のサロンを思い浮かべてみてください。

  • 毎月の総費用: 2,400,000円
  • 1ヶ月の総稼働時間: 12,000分
  • 座席数: 3席

この3つの数字から、お店の基本的なコスト構造が見えてきます。まず、お店を1分間動かすのにいくらかかっているかを計算します。総稼働時間は、お店を開いてお客さん対応が可能な時間と考えてください。

2,400,000円(総費用) ÷ 12,000分(総稼働時間) = 200円

このお店は、1分あたり200円のコストがかかっていることがわかります。

次に、このコストを座席数で割ってみましょう。これにより、1つの席を1分間維持するために必要なコストがざっくりと計算できます。

200円(1分あたりの費用) ÷ 3席 = 約67円

つまり、1席あたり1分間に約67円の費用がかかっている、ということです。これが、私たちが最初に使う「ざっくりとした共通コスト」になります。

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さて、この「席あたり分費用:67円」という共通のコストを使って、各メニューがどれくらいの利益を出しているように見えるか、最初の分析をしてみましょう。

2. 見せかけの利益:単純計算で見るメニュー別収支

ここでは、3つのメニュー(A, B, C)を例に、先ほど計算した「共通コスト」を使って収支を計算してみます。結果は以下の表のようになりました。

メニュー名 1分あたりの売上 1席あたり分費用(共通) 1分あたりの利益
メニューA 78円 67円 11円
メニューB 60円 67円 -7円
メニューC 67円 67円 0円

このテーブルだけを見ると、どうでしょうか? 「メニューAが最も効率よく利益を上げていて、メニューBは赤字。メニューCはトントンだな」という結論になりそうです。

しかし、これが本当にビジネスの正しい姿を映しているのでしょうか?

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答えは「ノー」です。「すべてのメニューでコストが同じ」という考え方は、現実的ではありません。なぜなら、メニューごとに使う資源や手間(=人件費)は全く違うからです。では、もっと正確にコストを計算するために、費用の内訳を詳しく見ていきましょう。

3. コストの解剖:費用はどのように分けられるか?

お店の総費用240万円は、様々な費用の集合体です。その内訳は以下のようになっています。

  • 家賃: 300,000円 (場所を借りるための固定費)
  • 人件費: 1,500,000円 (スタッフに支払う給与)
  • 水道光熱費: 150,000円 (水、電気、ガスなどの費用)
  • 減価償却費: 120,000円 (設備などの価値の減少分を費用化したもの)
  • 消耗品費: 180,000円 (サービス提供に使う使い捨ての備品など)
  • 広告宣伝費: 100,000円 (集客のための費用)
  • その他: 50,000円 (上記以外の雑費)

より正確なコスト計算を行うには、これらの費用を各メニューに**「配賦(はいふ)」**する必要があります。

配賦(はいふ)とは?

会社全体で発生した共通の費用を、ある「ものさし(基準)」に基づいて、各部門や製品(今回はメニュー)に割り振る作業のことです。これにより、「どのメニューが、どれだけ費用を使ったか」を明らかにします。

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それでは、実際にこれらの費用をメニューごとに配賦してみましょう。費用ごとに、最も公平だと思われる基準で分けていくのがポイントです。

4. より現実に近いコスト計算:メニューへの費用配賦

費用をメニューごとに割り振る方法は、費用の性質によって異なります。ここでは大きく3つのカテゴリーに分けて見ていきましょう。

4.1. 均等に分ける費用(家賃、広告費など)

家賃や設備の減価償却費、お店全体の広告宣伝費などは、特定のメニューだけに紐づけるのが難しい費用です。こうした費用は、3つのメニュー(または3つの座席)で均等に分けるのが合理的です。

4.2. 使用割合で分ける費用(水道光熱費、消耗品費)

一方で、メニューによって使う資源の量が明らかに違う費用もあります。例えば、水をたくさん使うメニュー、高価な消耗品を使うメニューなどです。これらの費用は、実際の使用割合に応じて配賦するのが公平です。

費用項目 メニューAへの配賦額 メニューBへの配賦額 メニューCへの配賦額 配賦の根拠
水道光熱費 33,500円 42,250円 74,250円 使用割合(水や電気の使用量)
消耗品費 15,000円 75,000円 90,000円 使用割合(専用の消耗品など)

この表から、メニューCは特に水道光熱費と消耗品費を多く使っていることがわかります。

4.3. 最も重要な配賦:人件費

サービス業において、人件費は最も大きなコストであり、これをいかに正確に配賦するかが利益計算の鍵を握ります。最も公平な「ものさし」は、「各メニューの提供にどれだけの時間をかけたか」です。

総額1,500,000円の人件費を、各メニューの対応にかかった合計時間の割合で配賦した結果、以下のようになりました。

  • メニューA: 725,815円
  • メニューB: 459,733円
  • メニューC: 314,453円

メニューAは、最も多くの時間を要するため、人件費も一番多く負担することになります。

全費用の配賦結果まとめ

すべての費用を配賦した結果、各メニューが負担すべき月間の総費用が明らかになりました。

項目 メニューA メニューB メニューC
合計配賦費用 964,315円 766,983円 668,703円

興味深いことに、メニューCは月間の合計コストだけ見れば最も低いことがわかります。しかし、これが利益にどう結びつくのでしょうか。

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すべての費用を配賦し、メニューごとの新しいコストが算出できました。この結果を使って、もう一度メニューごとの利益を計算し直してみましょう。果たして、どんな真実が見えてくるでしょうか。

5. 明らかになった真実:本当のメニュー別利益

ステップ4で計算した新しい費用配賦の結果を基に、最終的な比較表を作成しました。単純計算の結果と並べて見てみましょう。その違いは衝撃的です。

項目 メニューA メニューB メニューC
1分あたりの売上 78円 60円 67円
【新しい】1分あたりの費用 47円 82円 111円
【新しい】1分あたりの利益 31円 -22円 -44円
(参考:単純計算での利益) (11円) (-7円) (0円)

この最終結果から、ビジネスの核心を突く洞察が得られます。

  1. メニューBの赤字の深刻化 単純計算では-7円の赤字に見えましたが、実際には消耗品や水道光熱費を多く使うため、-22円という大幅な赤字メニューだったことが判明しました。
  2. メニューCの衝撃的な赤字 利益ゼロに見えたメニューCは、実は1分あたり-44円という、お店で最も収益性の低いメニューでした。その理由は、単純なコストの総額ではありません。 前のセクションで見たように、メニューCは月間の合計コスト(約67万円)や人件費(約31万円)は最も低かったのです。しかし、問題はその「時間効率の悪さ」にありました。メニューCは提供時間が長く、顧客数も少ないため、そのコスト(水道光熱費や消耗品費は高い)が非常に短い稼働時間(月6,000分)に集中してしまいます。その結果、1分あたりの費用が111円にまで跳ね上がり、提供すればするほど損失が拡大する構造になっていたのです。

一方で、メニューAは当初の予想(11円の利益)をはるかに上回る31円の利益を生み出す、真の優良メニューであることが明らかになりました。

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この衝撃的な結果から、私たちは何を学び、次の一歩をどう踏み出せば良いのでしょうか。最後に、今回の分析の要点をまとめましょう。

6. まとめ:数字を味方につけてビジネスを成長させる

今回の解説から私たちが学べる、最も重要な教訓は以下の3つです。

  1. 平均のワナに注意 すべてのコストを「平均」や「ざっくり」で捉えると、ビジネスの本当の姿を見誤ります。一見便利に見える平均値は、重要な個別の事実を隠してしまう危険性があります。
  2. コスト配賦の重要性 手間(人件費)や資源(消耗品など)のかかり具合に応じてコストを正しく配賦することで初めて、メニューごとの真の収益性が見えてきます。この一手間が、ビジネスの運命を分けるのです。
  3. データに基づく意思決定 感覚や人気だけでなく、こうした計算結果に基づいてこそ、「どのメニューに力を入れるべきか」「価格や内容、提供時間を見直すべきメニューはどれか」といった、的確な経営判断が可能になります。

コスト計算は、決して難しい会計学の話ではありません。自分のビジネスをより深く理解し、成長へと導くための強力なツールです。ぜひ、今日の学びをあなたのビジネスに活かしてみてください。